10歳は子供扱いされたくなくなるお年頃

 息子から、友達と夕食を外食するとの連絡が来た。そうか、楽しんでこいよ。そう言って連絡を切る。妻は仕事中だ。娘のすずねと私は顔を見合わせた。

 

 夕食の買い物をするために息子が自転車で帰ってくるのを待っていたので、あてが外れてしまった。歩いて買い物へ行くには少し店が遠かった。料理をする気がなくなってしまった私は、すずねに声をかけた。「ファストフード店へ行こうか。」期間限定で発売されているハンバーガーが前から気になっていて、いい機会なので食べようと思ったのだ。そしてフライドポテトが大好きなすずねは大喜びで賛成した。

 

 お店に向かう道で、すずねは唐突に話し出した。「すずは、ね」すずねは普段自分自身のことを「すず」と呼んでいた。「すずは、ね。もう自分のことをわたしって言おうと思うの。」

 

「へえ。そうなんだ。すずって言うのは恥ずかしくなったん?」私がそう聞くと、すずねは「うん。ちっちゃい子みたいだから。ちゃんとわたしって言おうと思って」と答えた。おもしろい。自我への目覚め。自分も10歳になった頃から、お店で「ぼくちゃんはどうするの?」みたいな聞かれ方をするのを嫌うようになったことを思い出す。子供扱いされたくないお年頃ですね。でもそうなるとこちらはいたずら心が働く。

 

「もし、すずって言ってしまったらどうすんの?」と聞いてみた。すると「その時は、注意して」と返ってきたので、オッケーと言って契約は成立した。

「ところですずねちゃん、お店では何を注文するの?」

「すずはねー、ポテトと、チーズバーガーと、ナゲットと、りんごジュース!」

はっはっは。ソッコーで名前呼びしてるやん。ゲラゲラ笑ってそう指摘した。「あはははは!言っちゃった!」と娘もゲラゲラ笑っていた。