半日休みはどこへ行った?

 仕事がお昼で終わった。これから自由時間が始まる。

 

 12時間も自由時間があると思うと、あれもこれもやりたいと思う。そして、休みが終わってまた仕事の時間になった時に、ああ役所に行かないといけなかったとか、平日の自由時間がないとやり遂げられない用事を思い出すのが常だった。そこで今日はその用事に時間を費やそう。そう考えながら駐車場に向かって歩いていると、向こうから同僚の泉が歩いてくるのが見えた。お疲れさま、どうしたの、と声をかける。ちょっとこれから会社の資金を銀行に預けに行く用事でね、と返ってくる。それはごくろうさまである。私は帰るよ、と伝えて、それはそれはと言いながらうらやましいですねといった表情を返してもらった。そういえば、二つ隣の市町村にある支店の責任者が、人事について泉と話がしたいとか言ってたよと伝え、それについては自分も思うところがあるから、明日一緒に仕事する時にまた軽く話をしようと思う。と付け加えて車に乗り込んだ。

 

 車の中の昼は、まだまだ暑い。クーラーをガンガンに効かせて発車させた。ジャケットは着たままである。クーラーを過剰につけるならジャケットを脱げばいいものを、敢えてジャケットを着て運転する。そのジャケットは先日ユニクロで購入した「感動ジャケット」という商品で、ジャケットとしては1万円を切る廉価なものだが、元々軽めでかつ大人の雰囲気が出る、春と秋の季節に心地よいジャケットを求めていたもので、この黒の軽めの感動ジャケットがその枠にぴったり嵌ったように思え、買ったのだった。シワができやすいのかな。生地は傷みやすいのかな。また買って間もないのでよくわからないが、とてもスタイリッシュに見えるので、自己陶酔に浸るのにちょうどいい存在だった。年甲斐もなく自撮りをして妻に送ったら、「かっこいい!!」と返事が来たので、まんざらでもない気分だ。なので、帰り道も黒いセダンに乗り、黒いジャケットを羽織って、いい気になって自己陶酔しながら運転するのがストレス発散になっていた。

 

 途中のコンビニに寄って、宿の電気代とガス代を支払う。この8月の電気使用量は10kWで、1000円ちょい。ガス使用量は1m^3で、2800円ちょい。こう比べると、ガス代の基本料金が高いんだなあと実感する。ガスはお風呂にしか使っていない。電気もクーラーにしか使っていない。家のマンションはオール電化で、電気代はその前の賃貸マンションの時の電気代+ガス代と比べて、ガス代がまるっとなくなった程度の金額で済んでいたことに当時も驚いたが、今もまた改めてガス使うと高くつくなあ、オール電化でいいよなあ。などと考えながら、新作の紅茶花伝を手に取ってレジに並んだ。

 

 そういえば新人の坂本さんも今日は休みだったはずだ。彼の家の近くには行くので、彼が暇ならついでに飯でもおごってあげようかな。と思い、彼に電話をかける。今、実は遠くに出かけているんで、待ち合わせとか無理なんです。そう彼は言った。まあ、休みだから、そりゃそうだ。こちらも急に電話して悪かった。じゃあまたね、と声をかけると、また誘ってください、と返してくれた。ちゃんと社交辞令できる。ありがたい。そう考えながら、今日こなす用事について思いをはせる。

 

 用事は2つ。携帯電話会社の代理店と、医者。携帯については、子供たちに与えている子供用携帯電話のサービスが11月で終わってしまうので、中止するのか、別のプランに乗り換えるのか。また、ポケットWi-Fiの性能が悪いので、改善する手段はどうすればいいか。を相談する。医者については、自分は脳卒中心筋梗塞などで即死してしまうリスクはどれくらいあるのか、評価してもらう。困ったことに、携帯電話に関するコンサルトも、医者への受診も、結構な時間をとられる。それは仕方のないことなのだが、今回も携帯電話に1時間40分、受診に1時間程度の時間がかかり、当然移動にも時間がかかるものだから、お昼3時に携帯電話代理店の入り口に立って、家に着いたのは6時半を超えていた。カッコつけていたジャケットもヨレヨレになった。ような気がする。

 

 そこからお風呂を沸かし、洗濯物を回し、夕食の準備をし、お風呂に入り、洗濯物を干し、夕食を食べる。気がつけばもう10時が近かった。本当に時間はあっという間に過ぎていく。そしてこれから白髪染めという用事が待っていた。好きなことをして遊ぶ時間はどこへ行ってしまったのだろう。本当に、1日48時間欲しい。そう思うくらいに時間管理がなってない。昔はお金を節約して時間を好き勝手に浪費していたのだが、いつしかお金で時間を買うような傾向が、自分にも表れていた。必死で時間を有効活用しようとしている。なのに、何も進んでない気がする。やりたいことは、まだまだある。今はそういうジレンマに嵌ってしまっている時のようだ。

 

 今日は本当は、12時間あったはずの自由時間で、仕事先で配布するチラシとこのブログを作って、勉強中のポルトガル語の要点をまとめて、それから少し昼寝するつもりだった。気づけば昼寝どころではない。深夜だ。自由時間はあと2時間。こうして先送り項目は増えていく。そしてやりたいことは次の日にも出てくる。困ったことに。永遠に時間が足りなくなる予定だ。

 

 ひとりでいても、やることいっぱいだ。そう話すと娘が言った。パパ。はやくこっちに来て。いつになったら来るの? 3日後? 遅いよ。もっと早く来て。たくさん一緒に遊ぶんだからね。自転車に乗って、マリオカートを一緒にするの、約束ね。・・・・ふーん。パパの話となんにもつながってないように思うんだけど気のせいか? でもパパも一緒にたくさん遊びたいよ。抱っこするの最高よ。すると息子からも連絡がくる。今度こっち来たら一緒に野球やる約束だからね。そして妻とは何日も前から、はやくセックスしたいね、したいね、と遠距離焦らしプレイを展開している。お前らといても、やることいっぱいだな。時間はあっという間に過ぎるくせに、3日後が来るのがなかなか待ち遠しく感じる。とりあえず感動ジャケットを羽織って、妻と子供たちの前でカッコつける準備は整った。