電話が鳴る

電話が鳴る。妻からだった。
 
―――もしもし。
 
「お仕事終わったんだね。おつかれさま」
 
―――そっちは、仕事は?
 
「まだ。今、休憩中。」
 
―――そっか。大変だね。がんばって。
 
「・・・・・・うん」
 
―――なんか、声に元気がないね。
 
「・・・・・・ん。・・・・あまり、話してないからかな。」
 
―――ああ。そういえば、あんまり話せてないかもな。自分が家にいてテレビ電話できる時も、きみは仕事中だったりするから。そして君が仕事終わって帰宅してテレビ電話したい時には、俺は電波の届かない宿にいる。みたいな。すれ違いだね。
 
「今日もお昼とか、連絡なかったし」
 
―――お昼か。今日のお昼は、ずっと仕事してたな。
 
「そうなんだ。」
 
―――仕事の記録がたくさん残ってたし、月1回発行してる機関紙の記事も仕上げたかったから、ご飯食べながらパソコンに向かってたわ。
 
「・・・・・大変だね。」
 
―――なかなか自分の思ってるような進み方で仕事が進まないから、あれもやらないと、これもやらないと、って自分で焦ってる。でも、振り返ってみると、少しずつだけど、やっておきたいことがやれてるから、あれもやれた、これもやれた、って充実感はあるよ。
 
「・・・・・忙しそうだね。今日なんかおもしろいこと、あった?」
 
―――そうやな。今キャンペーンで売り出し中の化粧品のテスターを使ってくれた人がいたんだけど、結構いい反応で、使ってみたい、って言ってた。無料モニターも軽く案内してみたけど、また来て買ってくれると嬉しいな。あまり反応のない商品だから、反応があるとめっちゃ嬉しい。元気になったね。
 
「そうなんだ。よかったね。」
 
―――うん。ほんま、よかった。
 
「・・・・・・・・。」
 
―――・・・・・・・・・。
 
「・・・・・・・・あ、そろそろ、休憩時間終わりだから。」
 
―――そうか。あともう少しやな。がんばって。じゃあな。
 

電話は切れた。妻の声はなんとなく元気がなかった。本人はあまり私と話ができていないからと言うが、本心はわからない。どちらにしろ、寝る前にまた声をかけた方がよさそうだ。
 
妻と会えるまで、あと2日。