CASE 12. 6歳の患者に、7歳以上の使い方しか示されていない薬は使えるの?

新人「先輩、この処方を見てください」

薬屋「ん? なんや?」

新人「フェキソフェナジン錠、6歳の患者に処方されてます」

薬屋「せやな」

新人「7歳以上の使い方が添付文書(公文書扱いの薬の説明書)に書かれていて、6歳以下のことは書いてないんですけど、使っても大丈夫なんですか?

薬屋「せやな。こういうパターンは薬によって対応が変わるんやけど、フェキソフェナジンの場合は、薬屋としては医者に聞く。」

 

新人「医者に聞く」

薬屋「せや。保険が明確に適用されるかわかりませんよ? って聞くわけや。あとはどう転んでもこの薬の場合は大丈夫」

新人「どういうことですか?」

 

薬屋「そうやな。どういうことか教えてやろう。」

 

薬屋「まず、この薬がなぜ6歳以下についての使い方の説明がないのか。その理由は、6歳以下に使っても大丈夫、という証明がされてないから。具体的には、臨床試験で6歳以下のデータを使って申請していない、ってことなんやろうな。どうしても知りたければ、薬を作ったメーカーに聞けばいい。ともかく、証明されていない使い方だから、厳密にいえば「適応外処方」となって、健康保険の範囲外となる。つまり、患者さんは自費で支払いを求められる処方となる。それを自費はかわいそうだからと無理矢理保険を使おうとすれば、不正請求になるリスクがあるわけだ。」

 

薬屋「でも、だからといって、6歳以下に投与して効かないと思う? この薬。

新人「・・・・たぶん、効くと思います」

薬屋「そう。ほぼ間違いなく効く。7歳で効いて、6歳で効かない、とか、どう理屈で説明できる? なんやったら6歳以下の投与例をうちの薬局で集めて、効きますよーってデータを叩き出してもいいくらい。それくらい確実に効くと思ってる。となると、問題は、副作用やねん。

新人「副作用」

 

薬屋「そう。6歳以下に使って『効いた!』となるメリットより『副作用で苦しんだ!』となるデメリットが大きい場合は、使ったらあかん。そこで、このフェキソフェナジンの副作用リスクを評価するわけや。どう思う?」

新人「・・・・よくわかりません」

薬屋「そうやろな。それは経験が少ないからしゃーない。そういう時は、余裕があれば論文をチェックする。余裕ない時は経験に頼るわけやけど、先に解答を言ってしまえば、この成分で重篤な副作用で要注意って論文は、まあないな。大人への使用経験から考えても、まあ眠気と過敏症(アレルギー反応など)くらいや。そもそもアレルギーを抑える薬やから、逆にアレルギー反応が出るとか、稀や。まあそれでも出る時は出てしまうから、全く考えなくてええわけやないけれども」

 

新人「と、いうことは。」

薬屋「6歳に使う時は、親に『眠気と過敏症に気をつけといて』って言って了解してもらえれば十分じゃね?」

新人「そうですね。そんなに危険な薬ではないですもんね。」

薬屋「そう。ということであれば、あとはさっき話した『保険適応外』の問題だけ。

 

薬屋「基本的には、ルール違反と言われてしまうリスクがあるわけだから、薬屋としては医者に『ルール違反かもしれないけど大丈夫ですか』と聞いておくわけだ。これ、聞いてなかったら薬屋が『ルール違反を見逃した』となって責任をかぶることになる。だから、医者には必ず聞く」

新人「はい」

薬屋「あとは、さっき話したように薬屋側も本音は『まあ使っても大丈夫じゃね?』と考えているわけだから、医者の好きにしてください、て感じや。ここで医者の選択肢は2つ。①そのまま6歳にも使っていく! ってのと、②うーん、保険でダメと言われて賠償とか困るからどうしよう? 薬ナシにする? 別の薬にする? っての。」

 

新人「なるほど」

薬屋「①の場合は、保険適応外の責任は医者が被ると、医者自身が決めたわけだから、まあそれならこちらは何も言うことはありません、そのまま用意しますよ、て感じになる。②の場合は、これは実はもう別の薬の案があるねん。オロパタジンって薬やねんけどな。それでどうでっか? と提案するつもり」

新人「ああ。オロパタジンなら、6歳でも保険で認められてますね」

薬屋「つまり、どう転んでも大丈夫、ってことや。医者の自由裁量を認める、て感じ。な。」

新人「なるほど」

 

新人「でも、思ったんですけど、最初からオロパタジンを医師に提案した方がいいんじゃないですか?」

薬屋「それもアリやな。でも、注意した方がええ。オロパタジンが合わない患者かもしれないし、オロパタジンは粉薬になるから、粉が嫌だーって言う患者かもしれないし、そもそもそういう薬剤師からの疑義照会を『ダメ出し』と考えてる、そういうのが嫌いな医者、おるからな。だいぶ減ったけどな。さらに、ここまで言った全てのことを把握した上で、敢えてフェキソフェナジンなんじゃー!と医者が考えてるかもしれんし。実際そうゆうのも多い。だから、その辺を見極めてからの方がええ」

新人「わかりました。ありがとうございました」