この仕事、助けてほしいんだけど。

 新幹線が進む振動で、充電していたiPod touchがテーブルの端に誘導され、ゴトっと音を鳴らして落ちた。あららと思って拾い、充電完了していたのを確認したそれをポケットの中に入れ、先程まで続けていたゲームを再開した。

 

 宿舎に着くと、そのiPod touchの電源が入らなくなっていた。

 

 寒い冬の影響で充電能力が低下している可能性もあったが、すぐに新幹線で落としてしまったことを思い出し、あれが原因に違いないと私は思った。今使用しているスマホ端末は3台で、そのうちメインで使っていたアカウントの端末がダウンしてしまった。データはクラウド保存しているので無事なはずだが、CD音源をもう一度パソコンからダウンロードしないといけない。それには時間がなく、次の日までお預けのタスクとなってしまった。束の間の音楽なしの時間に迎えられた。

 

 スマホ端末で妻のインスタグラムを開く。食事デートの記録が本人の喜びの言葉とともに残されていて、見ていて楽しい。そういえば先日、そのインスタグラムのアカウントのパスを忘れてしまったのでログインできず、更新できないと妻は話していた。へえ。それならばこのブログに転載してバックアップにするのもいいんじゃないかなと思った。無断転載。大切なふたりの記録だから、それもいいよな。そう勝手に考えた。

 

 最近はゲーム「魔神転生2」のセルフ攻略メモの記録に熱中している。楽しい。でもゲームって、同じソフトが好きじゃないと話題を合わせづらい。そのことをこれまでの経験で知っていた。魔神転生2好き、わかってくれる人いないかな。

 

 行動心理を考えることが少しずつ増えてきた。「トイレを綺麗に使いましょう」というのは全くもって正しいのだが、それを言われた側は正しいと分かっていても気分を害する可能性を否定できない。つまり、トイレを綺麗に使ってもらうために注意するシステムというのは筋が悪い。そこで、男性の小便器の真ん中に的のシールを貼る。すると男はその的をつい狙って用を足す。結果、小便が飛び散らずにトイレを綺麗に使える。嫌な気分になることもなく、率先して規則を守る。そういった現象にとても興味がある。

 

 かつて妻がパートで働いていた仕事場では、22歳の女性店長がたくさんのスタッフのモチベーションを維持し続けて仕事で好成績を残していた。彼女は決して怒ったりすることはなく、注意するときも言われた通りにしたほうが得になるような言葉、傷つかない言葉を選んで話すのがうまかったそうで、スタッフ内で頻繁にパーティーが開かれたり、スタッフからここの店最高!という声が出るほどだったという。

 

 その店長が出世して他店舗へ異動になり、別の20代前半の女性が赴任してからスタッフは新しい店長の文句を言うようになり、意思統一をはかるのが難しくなったという。それは新しい店長が無能だったわけではなく、スタッフ自体そう優秀なメンバーで構成されていなかったが、前の店長がスタッフの心を動かすのがうまかったからだというのが妻の見解だった。その話を聞いて私はとても感銘を受けた。単純に自分のできないことを自分よりもひとまわり以上も若い人がやってのけていることに、素直に脱帽したのだった。

 

 部下など人を動かす時、自分が上の立場であれば単純に指示を出せば動くように見える。その通りに動いてくれれば仕事は完了するが、実はそこには「自分のやりたいようにできなくて動かされている部下」がいて、「自分のやりたいように動けない」責任を上司の自分のせいにする。すなわち、自分の信頼性が知らないうちに下がる。例え正しい指示だったとしても、だ。だが、これを避けることは難しい。難しいが、避けることができたら先程の22歳女性店長のような信頼性の高いリーダーシップを発揮することができるだろう。そのためには各個人の行動心理を理解した方がいいのではないか、理解するにはどうしたらいいか。そういったことに興味がある。

 

 今日、いい言葉を思いついた。「この仕事、助けてほしいんだけど」。言われた側の気分はどうだろうか。そして、自分は助けてあげようと思うに値する人間になれているだろうか。そのために必要なことは、どういうことだろうか。そして、うまくいくだろうか。試していこうと思う。結果が楽しみだ。