Case 27. 保険薬局で関節リウマチ患者にタクロリムスを渡すときにチェックしておきたいこと

薬屋「タクロリムスについて。

・タクロリムスは臓器移植の拒絶反応を抑える目的で最初に世に出た薬。

・よって先入観として難しい薬という印象がある。

・なので、これさえ押さえておけば、とりあえず保険薬局で一番多く出会う関節リウマチ症例には対応できるだろう、というリストを用意した。

・これを使えば自信のない薬剤師でも対応できるようになっていると思う。

・さらにこれを叩き台として各場面で臨機応変に対応できるようになることを目指す。

 

◎作用機序

・カルシニューリンというタンパクの脱リン酸化を阻害する。と言われてもピンとこない。

・NF-ATという転写因子がある。それがカルシニューリンによって脱リン酸化される。

・すると、NF-ATは核内に移行してIL-2の転写を増やす。つまり、IL-2が増える。

・すると、IL-2によって細胞障害性T細胞、NK細胞、ヘルパーT細胞が活性化される。

・すると、他のサイトカインの誘導も増える。

・つまり、カルシニューリンの脱リン酸化を阻害することで、各種サイトカインの産生が抑制され、免疫反応抑制、炎症反応性低下、となる。という流れ。

 

◎禁忌

・タクロリムス過敏症、シクロスポリン併用、ボセンタン併用、K保持性利尿薬併用、生ワクチン併用

・これは、項目が少ないので覚えやすい。なので覚える。

 

◎用量について

・疾患によって用法用量が異なるので、必ず疾患を確認する。
・臓器移植:体重60kgで1回9mgを1日2回(0.15mg/kg/回)
・関節リウマチ:成人3mgを1日1回夕食後。高齢者は半分から開始し3mgへ増量可。

・でも実際は1mgスタートが多い。これは経験則のようだ。1mgで十分かつ副作用がほとんどみられない、というイメージ。

・それでも怖ければ0.5mgスタート。

・投与12時間後の血中濃度測定を行い投与量を調節することが望ましい、とされているが、実行されている雰囲気はない。
・カプセルと顆粒の違いについて:生物学的同等性が異なる。その原因は不明で、どっちが強く出るかわからない。→TDMの根拠となる。
・TDM:全血を使用。赤血球画分に分布するため。なので血清ではダメ。
・透析で除去されない。(透析性がない。という言い方をする。)

 

◎副作用など

・腎障害の発現頻度が高い。→チェック項目はNSAIDs使用量、クレアチニンおよびそのクリアランス、BUN、尿中NAG、尿中β-ミクログロブリンなど。
・高K血症に要注意。K保持性利尿薬は禁忌。エプレレノン、エサキセレノンは併用注意。主な初期症状は徐脈など。
高血糖、尿糖含む膵機能障害リスクあり。→DM系検査項目、アミラーゼのチェック
・心機能障害。→チェック項目は心電図、心エコー、胸部X線検査など
・高血圧
感染症
・これら以外の初期症状を訴える場合は、素直に添付文書を調べる。

 

◎特定患者リスク
間質性肺炎の悪化リスクあり。マクロライド系薬の長期投与例などには目を向けておく。
・肝機能障害患者でタクロリムス濃度が上がる。対策はTDMだが、外来では肝機能検査値を見て患者に意識させるくらいしかできない。
・妊婦:FDAグレードC(危険とも安全とも明白ではなく、有益性が危険性を上回る場

合に注意して投与する)。
・だいたいDrと相談していて、それでも不安な人が薬局で相談する。

・なのでDrとの会話内容をできるだけ把握し、補完し、安心して飲める気持ちを補強する指導を行う。
・要注意は器官形成期(8-16週)。それ以外は通常妊娠の奇形リスクと同じ、と話してよい。奇形報告例はある。

・ところが妊娠するとリウマチが沈静化する例が結構多い印象で、その間は飲まずに済むこともある。
・授乳:NG推奨。血中濃度の約半分が移行。
・小児:2歳未満でリンパ腫等の悪性腫瘍の発現確率高い。これも授乳NGの根拠。

 

◎相互作用

・CYP3A4で代謝されるので、その関係の薬剤との相互作用がある。

・あとは腎毒性、カリウム感染症。この4つが頭に浮かべばOK。

・具体的には、以下のような感じ。

・併用禁忌はシクロスポリン、ボセンタン、K保持性利尿薬、生ワクチン。
・本剤↑は酵素阻害するマクロライド、アゾール系、Ca-blocker、HIV系薬およびビル系、GFJ、PPI、アミオダロン、エチニルエストラジオール、ブロモクリプチン、トフィゾパムなど
・本剤↓は酵素誘導するカルバマゼピン、リファンピシン、フェニトイン、SJWortなど
・腎毒性増強はNSAIDs、アムホテリシンB、ST合剤、アミノグリコシド
・ワクチンの効果を弱める。
・エプレレノン、エサキセレノンでK注意。

 

◎ADME
・吸収は、食前服用は食後服用の約1.5倍。
・タンパク結合率は98.8%以上。だがそれに関する相互作用は見当たらない。

・今後出てくるかもしれないが、今は無視してOK。
代謝はCYP3A4。脱メチル化と水酸化がメイン。よって肝機能低下時は要注意。
・排泄は胆汁。尿中は1%以下。

 

◎その他の話題

・タクロリムスの語源は、Tsukuba(筑波) mACROLide IMmUnoSuppressant の大文字部分。筑波の土壌で発見された日本産の成分。
臨床試験までの呼び名:FK506が有名。作用機序の模式図にFK506という表記は頻繁に出てくるので、知っておくと楽。

・シロリムス → 薬剤溶出ステントに最初に利用された(商品名:Cypher)。以降、冠動脈障害におけるステント治療が発展した。
・現在ステントから溶出される薬剤はシロリムス、エベロリムス、ゾタロリムス、バイオリムス、パクリタキセル
・こちらのリムス系の作用機序は、mTORに結合し阻害 → G0/G1期→S期になるのを阻害。平滑筋に特異性が高めの様子。
・エベロリムスは商品名サーティカンとして流通しているが、免疫抑制剤としてはタクロリムスとの併用が望ましい、となっている。