一期一会とは言うけれどゲームのやめ時は縁の切れ目ってドライすぎやしないか?

オンラインゲームをたくさんやっていた時期があった。

 

基本はひとりでゲームを遊ぶスタイルのもので、ゲーム内にチームのようなものを作って、そこに仲間を集めて、仲間と協力してゲームを単独で楽しむ以上に楽しめるシステム。そのようなシステムを組んでいるオンラインゲームでは、チーム内の交流もゲームの楽しみのひとつとなっていて、自分もそのゲームのプレイと共にオンライン上の人と交流することも楽しんでいた。

 

チームは基本的に離脱は自由で、誰でも簡単に離脱できるかわりに、長くチームにいれば、長く一緒にプレイしてくれる人ということで、その分信頼度は高まり、より深く仲良くなれる。そして、ゲーム以外でも交流が広がり、それが自分の人生を豊かなものにしてくれる。そう思っていた。

 

そうしているうちに日常が忙しくなり、オンラインゲームばかりしているわけにもいかなくなってきた。最終的にはゲームのイベント自体も楽しいと思えなくなり、そのチームを抜けることにした。それでも、チームの仲間とはそれなりに仲良くやってきたという思いがあり、チームを離れても交流が続くといいなあという思いから、このブログとツイッターのアカウントを紹介して、これからはこちらでもよろしくお願いしますと誘導した。

 

その思いとは裏腹に、その後チームの人たちとの交流が続くことは、ほぼなくなってしまった。何か悪いことをやってしまってたかな? と思うくらいに、交流がなくなってしまった。そのチームには3年半近く居続けていたこともあり、チームには親しみを持っていたのだが、そのチームのメンバーと脱退したメンバーとが一緒に在籍できる無料オンラインサロンのような場所でも、自分のアカウントは排除されていて、かつての仲間たちと交流することはできなくなっていた。ツイッターに関しては、かつてチームだった同志からはほとんど、フォローをことごとく外されていた。そしてこちらから絡んでも、自分に対してのみ反応がない。どうやらミュート(自分のメッセージが相手に届かないように設定)されてしまっているようだ。ちなみにそのチームは、ゲーム内では割と雰囲気が良いと評され、人気な方に属するチームだ。

 

我ながら、人望が無い。無いのだが、それにしてもあまりに冷たくないか? ゲームでチームを離れたら人間関係もおしまいなのか? 自分はチーム内の人達とは一般的な「友達」のような感覚ーーーーーー時を経て久々に声をかけても、ひさしぶり!何してる? といった感じで関係を再構築できる、信頼しあった関係だと考えていたが、どうやら事情は異なり、ここでの関係は元カレ・元カノのような、もしくはセフレのような、一度疎遠になったら蔑んだり黒歴史化するような代物で、再構築なんて到底望めない、過去に捨てていくべき関係、という取り扱いのような雰囲気を感じた。そんな関係にならないようにするために、チーム内外で交流をしてきたのだが、全く効果がなかったようだった。

 

それともチーム内でいるからにはしぶしぶ仲良くしてくれていただけなのか? そんな感じもする。それならただ自分に魅力がないだけで、ただ情けないだけではある。それでも、このゲームのために費やした時間に意味はあったのか? ゲームをやめたらなくなってしまう程度の交流に、費やした時間に意味はあったのか? そんな思いに包まれながら、妻と喫茶店でドリンクを飲んでいた。

 

「ね、あの夫婦見て」と妻が言った。女性の右耳に、黒地でオレンジのラインが鮮やかに施されたワイヤレスイヤホンが装着されていた。それは男性の左耳にも同じものが装備され、パソコンで再生されている動画の音声が流れているようだった。二人はふふふと笑いあい、楽しそうな雰囲気が作られていた。「なんか、いいよね」「そやな。ええ感じやな」。あのー、と後ろから声をかけられた。店員さんだった。これ、新作のドリンクなんですけど、よかったら、お試しいかがですか? と、新作のドリンクを入れた小さなカップを二つ、テーブルに置いていった。「なんか、かわいいカップだね」「絵になるな。写真撮ろうか」。そのかわいいカップを並べて、二人で写真を撮り合った。新作のドリンクは、あっさりしておいしかった。

 

「私の場合はね」妻が話し始めた。「私は、ネットで関係した人達と友達になろう、友達関係を続けていこう、とは思ってないのね。だから、あまり関係が長く続かなくても、そう残念でもないんだけど・・・・というのはね、」

 

「例えば、相互フォロー関係になったこの女の子。まあまあかわいいんだけど、この子、写真をアップする時にね、自分よりかわいくない子と写ってる写真では顔を隠さないんだけど、自分よりかわいい子と写ってる写真では、そのかわいい子の顔を絵文字とかで隠すの。

そんな性格の女の子と、仲良く友達を続けたいとは思わないよね。だから、まあその女の子はどうも1番になりたい傾向のある子だったのかな? 承認欲求が強かったのかな? たくさん褒めてもらいたかったみたいなんだけど、私はつきあいで褒めるとかしないから、正直に褒める時は褒めて、何も感じないときはスルーって感じでつきあってたんだけど、なんかそれが気に入られなかったみたいで、気づいたらフォロー外されてた。先に外されたから、なんでおまえごときに・・・とは少し思ったけど、おまえごときに・・・って思う程度の人だったから、すぐにどうでもよくなって、なんにも思わなくなった」

 

「女同士だから、ドライなんだよね。基本、自分の事が一番大事、って女ばっかりだから。ほら、女って時々フォロワー整理するじゃん。しかも、わざわざ『そろそろフォロワー整理します』って発言して。そう発言して反応してくれる人は、自分に興味を持ってくれてる人で、反応ない人は、興味を持ってない人っていう勘違い判断をして、切っちゃうのね。本当は興味を持ってるけど反応せずに見てる人だって多いんだけど、かまってちゃんだから、かまってくれない人は自分に益を与えない人だってことで、切っちゃう。そんな人ばっかりだから、気軽に付き合っても、やがて切られる。その女にある程度の媚を売らないといけないのね。つきあいで、ね。でもさ、私も女だから、イケメンならまだしも、なんで女にわざわざ媚を売らないといけないの? て思うし、そんなことで別にフォロー切られても、ああそうですか、ま、いっか、て感じ。どうでもいい」

 

「私の場合は、自分の趣味に合う人で、そういう余計な気を遣わない人と必要最低限話せれば十分で、雑談とかは旦那さんとできれば十分だから、ネットで友達付き合い。うん、なくていいかな。だから、長く付き合える人がいてもいいけど、いなくなっても、別になんとも思わないかな」

 

そう言って妻は、すっとドリンクを飲んだ。なかなかおもしろい価値観だ。ネットの向こうの人との付き合い方が二人の間でこんなに異なるのもおもしろいが、彼女の価値観に影響されて、私と長く付き合っていこうとしなかった人達は、実はたいしたことない人達だったのかもしれない、と考えることもできて、幾分か自分の気が軽くなった。それもおもしろかった。そもそも自分は、去っていく人間を追うような奴ではなかった。自分のことを気に入ってくれる人をまず大切に。それだけでも、結構豊かな人間関係になった。そして、気に入ってくれない人に手出しをして、無駄に好かれなくて悩むこともない。自分は他人に求めすぎていたのかもしれないな、知らない間に。そう反省した。

 

「別に長く付き合えなくても、いいじゃん」

「そうやな。既に長く付き合えて、楽しく話せる人がおるもんな。ここに」

 

スマホの画面を閉じた二人は席を立ち、家に向かった。もうすぐ子供が、学校から帰ってくる。