とある女のダイエットがなかなか成功しない理由:夢一夜

こんな夢を見た。

 

(刺激的な表現を含みますので、十分にご注意の上お読みください)

 

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「渚は、本当にかわいい。あとは、この贅肉が少しでも少なくなれば、完璧なのに」

 

夫からそう言われた渚は恥ずかしくなって、軽く夫の体をぺちと叩いて「言わないで」と怒っていたが、それ以来、時間があけば近所のトレーニングジムに通って運動をするようになった。夫はこれまでも、渚の体を愛撫する際に、不意にお腹の肉を掴んだりして、そのたびにその手をぺちと叩いていたのだが、自分自身も今の贅肉でたるんだ体を気に入ってるわけではなく、また夫の期待にも応えたい思いもあった。もうトシなんだからやせたって意味ないよ、と開き直った態度をしてごまかすのをいつまでも続けたいわけではない。そんな折に、近所のトレーニングジムのキャンペーン広告が目に入った。週3回のプランで3か月無料。そのキャンペーンをきっかけに、渚はそのジムに通うように努力した。

 

食事にも気をつけた。食べる量はこれまでの8割に制限し、それを5割に近づけていこうとしていた。間食をとることはほぼなく、夫が大好きなクレープを食べに行こうと誘われたときに、一緒に食べる程度。それ以外の間食はとっていなかった。それでも、贅肉を思うようにそぎ落とすのは難しかった。なかなか落ちない。年齢の影響もあるのかもしれない。もう若い20代ではない。それでも、年齢を重ねるとこんなにも代謝が落ちてしまうものなのか、渚はなかなか落ちない体重に悩んでいた。

 

ジムへ歩いていく時、また、ジムから家へ歩いて帰る時、渚は妙にそわそわしてしまう。誰かが背後から声をかけてきたら、どうしよう。そう不安になりながら、そんなことにならないように、気をつけて歩く。足早に。足早に。

過去に、とても怖い思いをしたことがある。内科に受診したその帰り道、不意に通りすがりの男から声をかけられた。

 

「お姉さん、綺麗ですね。僕と、セックスしませんか?」

 

時間はまだお昼の2時を過ぎたあたりだった。いくら周りに人があまりいないとはいえ、あまりにも下劣な誘いだ。渚はその男を無視し、足早に帰り道を急いだ。男は「おねーさーん」「綺麗なおねーさーん」と言いながら追いかけてくる。結構しつこかった。渚はだんだん必死になって逃げた。それでも追いかけてくる。そのうちに、渚の体力が尽きはじめ、男に追いつかれてしまった。男は渚の肩をぐいと引っぱり、罵声を浴びせた。「(綺麗だからって)調子のんな」そう言って、男は去っていった。

 

「調子のんな」「調子のんな」その言葉が、渚に強烈にフラッシュバックを引き起こした。

「調子のんな」「調子のんな」「かわいいからって調子のんな」そう吐き捨てながら、男は肉棒を渚の膣に突っ込み続けていた。

「調子のんな」「調子のんな」「かわいいからって調子のんな」自分勝手にレイプされ続ける自分の体に絶望しながら、渚の頭の中にその言葉が響き渡った。

 

当時18歳だった渚はオシャレが大好きで、存分に自分をかわいく飾っていた。今、渚をレイプしているその男は、少し前まで「渚はかわいい」「渚はタイプだ」などと言って口説いてきていた。それはここ最近ずっと続いていたのだが、渚はその男をそれほど好きではなかったので、適当に流していた。すると男は冗談半分な感じで「調子のんな」と言って、体を押さえてきた。その男の力は、握力15kgしかないか弱い渚が抵抗しても、びくともしなかった。その時に渚は、その男が冗談を言っているわけではないことに気がついた。

 

「ちょっと何やってんの」「やめてよ」抵抗する渚をものともせず、男は侵入してきた。「やだやだやだ」「ひどいよ」「なんでこんなことするの」泣き叫ぶ渚に男は「お前の見た目がそんなのが悪い」「その見た目で誘ったようなもんだ」「かわいいからって調子のんな」「おまえがそんなだから悪いんだ」と、渚を悪者にしてレイプを続けた。

 

自分の膣に肉棒が突っ込まれ続けるのを絶望的に見つめる渚。頭の中に混乱が駆け巡る。

「なんでこんなひどいことをされているんだろう」

「私がかわいく飾っていたのが悪かったの?」

「じゃあ、見た目が悪ければ襲われずに済むの?」

「見た目が悪ければ怖い思いをせずに済むの?」

「そうかもしれない、見た目が悪ければ女として興味は持たれない」

「そうしたら、こんな風に襲われずに済む。怖い思いをしなくて済む」

そうして、渚の身を守るために、脳の中で由香が生まれた。

 

渚が夜に寝静まった後、由香が現れて寝静まった体を起こす。体がやせ始めている。やせてかわいくなってしまったら、また怖い思いをする。危険。危険。見た目を悪くしないといけない。

由香は台所へ向かった。見ると、お皿の上にパンケーキがたくさん重ねておいてあった。子供たちがおなかをすかせた時に、食事時間までのつなぎに活用すると良いだろうと、夫がたくさん焼いておいてくれたものだ。ちょうど良い、と由香は手を伸ばした。1枚。2枚。3枚。4枚。5枚。満腹で苦しい。苦しくても食べる。食べる。食べる。食べながら眠気に襲われる。これで少しは太れるかな。怖い思いをしなくて済むかな。そう思いながら、由香は脳内へ戻っていった。

 

朝、目覚めた渚は、深夜の由香の行動を全く知らない。朝食を食べる気にならない理由を、ダイエットに慣れてきたからかな? と思いながら、でもなかなか痩せないなあ、と思いながら、朝の支度を進めていった。

 

渚が本当に痩せることができる日は、来るのだろうか。

渚が本当に救われる日は、来るのだろうか。