Case 30. β遮断薬+DOACの処方を見たら不整脈を視野に入れる

薬屋「抗不整脈薬について薬剤師が最初に知っておきたいことは:

・リズムコントロール不整脈をなくし洞調律を目指す)とレートコントロール不整脈を残したまま、心拍数を正常に維持する)がある。

・どっちが治療成績(生存率)がいいかというと、同じか、ややレートコントロールに分がある。

・レートコントロールに使う薬はβ遮断薬、ベラパミル、ジギタリス

・強さは、β遮断薬>ベラパミル>ジギタリス。これらは房室結節を抑制する。

・そして、不整脈になると血栓ができやすくなる。

・なので、ワルファリンかDOACを使う。

・よって、β遮断薬+DOACの処方を見たら不整脈を視野に入れると話が合うことが多い。

 

・リズムコントロールに使う薬は安全性重視、つまり副作用リスクの少ない薬を選択することが多い。

・安全性重視の内服薬はピルシカイニド、アプリンジン、メキシレチン。

・メキシレチンは心室にしか効かない。

・フレカイニドやベプリジルといった手ごたえのある薬を使っている場合は、不整脈に慣れた医師が不整脈の細かい状況に狙いを定めて使っていると思って良い。

 

薬屋「これらを踏まえたうえで、不整脈の病態に対応した治療(薬)の簡易的な考え方は:

(1)洞徐脈、洞不全症候群
 シロスタゾール、抗コリン作用のある薬

(2)徐脈頻脈症候群
 ペースメーカー+I群薬

(3)高度・完全房室ブロック
 ペースメーカー。緊急時はプロタノールL注

(4)心房期外収縮(PAC)
 無治療。使うならアプリンジン、ピルシカイニド。または精神安定剤

(5)心室期外収縮(PVC)
 無治療。使うならメキシレチン。または精神安定剤

(6)心房粗動(AF,AFL,Flutter)
 カテーテル・アブレーション。薬はほぼ無効。
 レートコントロールするなら薬を。特に2:1房室伝導時は積極的に行って4:1房室伝導を目指す。
 抗凝固療法はしっかりと。

(7)心房細動(Af,AF)、発作性心房細動(Paf)
 Ia,Ic,III群薬とベプリコールが候補。
 Ib群はアプリンジンのみ有効で、リドカインとメキシチールは無効。
 レートコントロールも可能。カテーテル・アブレーションも可能。
 場合によっては電気的除細動。
 薬剤投与中の心房粗動の出現に注意。
 抗凝固療法はしっかりと。

(8)顕性WPW症候群の心房細動
 心電図はwide QRS tachycardiaに見える。δ波を見抜く。でもだいたいびっくりして見抜けない。
 副伝導路(Kent束)を介した伝導が強まっている。
 なので、主伝導路(房室結節)を抑えるベラパミル、ジルチアゼム、ジギタリスは血行動態破綻やVFリスクがあるので禁忌。
 I群薬、またはKent束のカテーテル・アブレーションが有効。

(9)発作性上室頻拍(PSVT)
 ベラパミルが第一選択。施設によってはアデホスL。その場合はジピリダモールで効果遷延するので注意。
 β遮断薬、ジギタリスも有効。
 顕性WPW症候群であればIa,Ic群薬またはIb群のアプリンジンを。

(10)心室頻拍(VT)、wide QRS tachycardia
 特発性VT以外は、よくわからなければ安全性重視でリドカイン。だめなら直流通電。
 器質的心疾患があることが多く、その場合の薬物治療はアミオダロン。
 β遮断薬、ARBや利尿薬などで器質的心疾患を治療することも大事。
 右脚ブロック+左軸偏位の特発性VT→ベラパミル。ベラパミル感受性VTともいわれる。カテーテル・アブレーションも有効。
 左脚ブロック+右軸偏位の特発性VT→ベラパミル、またはβ遮断薬。アデホスLも有効。カテーテル・アブレーションも有効。交感神経依存なので安静にしているだけで止まることもある。

(11)心室細動(VF)、torsades de pointes(TdP)、QT延長症候群
 直流通電、植込型除細動器(ICD)

 

薬屋「病態に対する考え方については病態の理解、心電図の理解も含めての簡易的表現になるので、とりあえず慣れない間は簡易的考え方を参考に対応してもらって、でもそれで済まさずに、ここに出てきた2:1房室伝導などといった専門用語がわかる程度の深い理解にたどり着くように研鑽して頂きたい。わかりにくいことがあったらどんな小さなことでも聞いて。それは恥ではない。こちらの解説不足だから」