CASE 7. 同じ薬なのに説明と指導が違うんですけど?

薬屋「はい坐薬。熱出たら使って。3歳半か。じゃあ、まあ、38℃以上で本人しんどそうやったら、おしりから入れたって」

親A「1本まるまる入れていいんですか?」

薬屋「たぶんええと思うけど。体重は?」

親A「13kgくらい。。。」

薬屋「うん、全然入れてもええよ。大丈夫」

親A「この前にもらった坐薬は、使えるかな。。。(おくすり手帳をさかのぼる)」

薬屋「。。。。ああ、これね。アンヒバ200mg、2/3本」

親A「そうそう、それです。まだ余ってるんですけど、2/3に切って使ってたから。今日のはまるまる1本?」

 

薬屋「うん。まるまる1本。今日のは100mgやから。この前のは200mgの2/3やから、133mgくらいやろ。今日のまるまる1本の方が量少ない。せやから大丈夫」

親A「そっか。なら安心ですね。でも、今日の方が少ないんですよね。効きます・・・?

薬屋「効くと思うで。解熱するのが目的やから、量が少なくても解熱したらええねん。例えばさ。大人の解熱剤とかで1回500mgとかいうのがあるんやけど、ワシやったら300mgでも熱下がるもん。大人用量の500mg飲まなあかんとかと、ちゃうねん。熱さましは熱下がったらええねん。お子さんだって、薬の量が少なくて効果ある方が、安心やろ?

親A「確かに。あんまりたくさん薬入れたくないですね」

薬屋「せやろ。せやからまるまる1本入れて様子見で、ええで。気になるんやったら先日の200mg 2/3本の方を使ったらええ。熱が下がったらどっちでもええ。」

親A「わかりました。とりあえず1本の方でやってみます。ありがとうございました」

 

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薬屋「はい坐薬。熱出たら使って。3歳半か。じゃあ、まあ、38℃以上で本人しんどそうやったら、おしりから入れたって」

親B「2/3に切って使うんですか?

薬屋「たぶんええと思うけど。体重は?」

親B「13kgくらい。。。」

薬屋「うん、全然入れてもええよ。大丈夫」

親B「この前にもらった坐薬は、使えるかな。。。(おくすり手帳をさかのぼる)」

薬屋「。。。。ああ、これね。アンヒバ100mg、1本」

親B「そうそう、それです。まだ余ってるんですけど、まるまる1本使ってたから。今日のは2/3に切って使うのですか?」

 

薬屋「うん。切って使う。今日のは200mgの2/3やから133mgくらいやろ。この前のは、100mgやから。今日の2/3の方が量多くてしっかり効く。せやから大丈夫」

親B「そっか。なら安心ですね。でも、今日の方が多いんですよね。強すぎません・・・?

薬屋「ちょうどええと思うで。たぶんな、お医者さんはしっかり熱を下げてあげたいんやと思う。それが目的やから、量をしっかり入れたいんやな。例えばさ。大人の解熱剤とかで1回300mgとかいうのがお店で売ってるんやけど、ワシやったら500mgないと効かんもん。500mgはお医者さんの処方じゃないと出てこーへんねん。やっぱ中途半端に薬入れて効果不十分やったらつらいやん。お子さんだって、どうせ薬飲むなら害がないとわかってる範囲でちゃんと効果ある方が、安心やろ?

親B「確かに。薬なんだから効かなかったら困りますね」

薬屋「せやろ。せやから200mgの2/3本を入れて様子見で、ええで。それでも量が気になるんやったら先日のまるまる1本の方を使ったらええ。結局、熱が下がったらどっちでもええ。中途半端に効かんかったら困るけど」

親B「わかりました。とりあえず2/3本の方でやってみます。ありがとうございました」

 

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日記はここで終わらせてもよかったのですが。余談に追記を。最近、ネットで症例を紹介している例をよく見るようになったので。まあ自分のこの系の記事も、フィクションとはいえ、そうなんですけれども。

 

おくすりの処方を決める要素は、病気そのものの状況だけではなく、いろんな要素があります。例えば。

・医師の癖

・薬局の在庫状況

・患者の仕事や生活スタイル

・患者および家族がどんなことを喜び、どんなことで怒るか

・アレルギーやこれまでかかった病気などの特性

・治療がどの程度継続できる見込みがあるのか

・お金の支払い能力

・薬をどの程度指示通りに飲む人なのか

・こちらの話をどの程度聞いてくれる人なのか

・薬の好き嫌いや、そもそも適切に使用できる剤形(粉、錠剤、塗り薬、注射など)なのか

・宗教的にNGな薬ではないか

・その他いろいろ

 

なので、同じ薬だから同じ説明、となるとは限りません。患者さんひとりひとりが個別のストーリーを持って受診、来局されます。医療者はそういった所も含めて状況を把握し、治療に携わります。だから、時には医療的にベストではない治療方針だったとしても、その患者にとって最善であれば、そのような方針をとることも十分あり得ます。

 

ところが、そのような手続きで決められた治療方針に対して、ネットで表面的に質問され、表面的に誤解され、「それはベストな治療じゃないね!!」といった感じで、さも知っているかのように治療提案をされる方がいらっしゃいます。そのような何も知らない外野の意見に振り回されてしまった時は、私達医療者は患者を責任をもって救うことができなくなります。医療者が責任を持つのは、医療者が提案した治療方針に対してのみですから。

 

医療者として薬屋のできることは、

・治療方針に基づいた適切な処方に対しては、その薬を適正使用してもらえるように患者を導くこと

・治療方針に対して適切ではないと考えられる処方に対しては、処方医に対して質問(疑義照会といいます)して適切な処方であることを確認すること

が基準となります。そうした場合、同じ薬に対して説明や指導が違うということは、容易に起こりえます。治療方針が異なれば、薬の目的も異なりますから。