仕事を辞めた後もその信頼関係は厚いの?

今日は人事の話です。

 

先日、10年以上働いていた管理職の草野さんが辞めました。話によると、草野さんは広川社長にとても気に入られていたようで、よくゴルフに連れて行ってもらったり、社長の命令や社内のルールに対して草野さんが異議を唱えると、草野さんの担当部署だけは治外法権となったり、といったことがあったようでした。

 

そういう話を聞いていたものですから、なぜ辞めるのかを聞いてみました。「え? 家の病院の臨床検査技師になるため」と、草野さんは言いました。草野さんの奥様は医師で、家の病院というのは厳密には奥様の実家の病院ということになります。が、草野さんは薬剤師の資格を持っており、弊社では薬剤師として技能を発揮していたのですが、それなのに臨床検査技師として病院に入る、という響きに、思わず大変ですねえ、という言葉が出ました。草野さんは、「後藤さん、家のことなんで、いろいろあるんですよ。人間関係とか、いろいろ、ね。事務長兼任だと思うけど」などと言っていました。おそらく、その病院は院内に薬剤師を置かず、人件費を削減するため等の目的で現場で動ける人を身内から用意する、ということなのでしょう。

 

ということで、草野さんがいなくなって穴の開いた席に私が入ることになりました。草野さんは日々の仕事で発揮する薬剤師の職能を、「薬を調剤して患者にお渡しする」に特化し、それ以外の仕事をできるだけしないように、しないように手配していました。よって、私が引継ぎの日時について聞いても、人事を担当している泉さんからは、「いや、必要ないでしょ」という回答でした。草野さんも「引継ぎといっても、引き継ぐものがない」と言いました。それくらい簡単な仕事だ、という風に感じ取れるニュアンスでした。10年近くその仕事をしていて、それなのか。それでも、こだわりを持って頑張ってきたことくらいは引き継ごうとも考えましたが、「できるだけ何もせず、早く家に帰るようにした」とか返ってきそうな雰囲気だったので、結局引継ぎなしで、草野さんがいなくなった次の日から実践で担当部署を回していったのでした。

 

それでも、草野さんは次の仕事場では週末に時間が空くそうで、「土曜日とかはバイトに来るよ」と、現場スタッフには言っていました。社長に気に入られていた様子の草野さんなので、そのような一部復帰もあるだろうな、と思いました。薬剤師の資格を使ったバイトというニーズも、社内にはありました。そんな中、人事を担当している泉さんと食事をする機会があったので、その辺についての話を聞いてみたのでした。

 

私「で、実際、草野さんが土曜だけバイトに入るの?

泉「ああ、その話ね。草野さんがバイトしたいって広川社長と話をしてたんだけど、どうも条件が折り合わなかったみたい

私「へえー。前に雇用してたし、お気に入りのような対応だったという話だし、スムーズに話が進むもんだと思ってた

泉「うん。自分もそう思ってたけど、社長の思惑は違ったみたい

 

私「へえー。どう折り合わなかったの?

泉「うーん。お金かな。草野さんは以前働いていた感覚での報酬を期待したけれど、社長は現状働いている人間よりもお金を支払うことをよしとしなかった、て感じ?

私「そうなんだ。気に入られてたんじゃないの?

泉「そうだと思うけど、それとこれは違ったみたい

 

私「そうか。まあ、土曜だけ仕事するとか、人材としては融通きかないよな

泉「うん。で、他の店舗での仕事は、社員の時から草野さんは断ってたし

私「それも、他の店舗での仕事をしたくない、ではなくて、できる能力がない、という断り方をしていた、って話だよね?

泉「そう。本当はほかの店舗の人員がいるんだけど、そちらには使えない

私「なるほど

 

泉「そしたら元にいた現場。そう。後藤さんの所でしか働いてもらえないってことになるけど、後藤さんがいればそれ以上人員いらないし

私「だよね

泉「まあ、土曜日だけでもほかの人を用意して後藤さんを自由な駒として動かせる、ってメリットはあるんだけど、それならその現場は別に他の人件費安い人間に行ってもらったりでいいし、なんなら別の社員を一人動かせば、経費ゼロだよね

私「確かにな

泉「そうなれば、社長はやっぱり今雇用している人間以上のお金を渡す、って選択肢には、ならなかったみたい

私「なるほど

 

その話を聞く前までは、広川社長は割と情に厚く、親分肌な印象を受けていました。なので、忠誠心を示しつつ要望を要望通りまたはそれ以上に満たしていれば、悪く思われることなく居心地よく仕事ができるな、末永く付き合っていけるな、という方針で対応していました。おそらく草野さんもそのような感じで気に入られていたと思っていましたが、違ったようでした。なぜ草野さんの要望は今回通らなかったのか? 草野さんは気に入られていたわけではなかったのか? ならば、なぜ草野さんはいろいろな面で良くしてもらっていたのか?

 

草野さんは家の病院の仕事をするために辞めた、ということなんですが、ここで、あ! と気づきました。草野さんが入社した頃は会社としては右肩上がりの業績で、おそらく会社としてはどんどん業務を拡張していった時期。そうなれば、草野さんの家の病院が病院外に処方箋を発行する方針に切り替える時を狙って、その病院の前に薬局を作りたかったに違いない。その薬局で、草野さんの薬剤師の職能を発揮してもらう。それを狙って、草野さんを大切にしていたのでしょう。言うことをきかなかったりする面にも、目を瞑って。

 

しかし、10年以上経過しても、その病院が処方箋を発行する方針にはならなかった。会社としても、時間の経過とともに、薬局を増やしてもそう業績が上がらない時代になってきた。むしろ薬剤師は不足し、増やしてきた薬局を維持することに力を注がなくてはならず、薬局を増やすどころではなくなった。よって、会社にとって草野さんの存在は、将来性のある薬剤師からただの平凡な薬剤師というものになってしまった。これから先も仲良くして投資する価値のない人になってしまった。ということのようです。

 

なるほど。人情に厚いようで、本当に重視しているのは会社の利益、ってことですね。社長ならば当然です。ですが、親分肌で人情に厚い(ように見える)面を見ていると、そのような冷徹な面はつい見逃してしまいます。なるほど。これからこの会社でお世話になる上で、この点は押さえておかないと、痛い目を見るな。そう思えた、興味深いできごとでした。

 

というわけで、入社してからわずか1年半程度で管理職になってしまいました。弊社はまだまだ薬剤師が不足しておりますので、さっさと出世してたくさん報酬がほしいのなら、弊社が狙い目です。あ、出世に興味はない、プライベートを充実させたい、子供の行事などを優先させたいんだ、という方も、人事に割と融通の利く弊社が狙い目です。薬剤師限定ですけれど、お? と思われた方。お気軽に私までご連絡下さいませ。